2024/01/10 14:15

製作秘話や裏話を語るバックストーリーシリーズ。
こちらはInstagramではおなじみなのですが、Blogにもアップしていこうと思います。

今回は新作の【Ai】です

初めての方も、お馴染みの方も、とても長いのでお暇な時間やリラックスタイムのおともにどうぞ。
そっと1冊の本をめくるように、読んでいただけたら嬉しいです。


「心にぽっかりと穴があいたようだ」よくきく台詞だけれど、これほど当てはまる言葉が
今のわたしには見当たらない。


あるひとがわたしの状態を「喪失」と表した。


恋愛に限らず、愛し愛され居て当たり前の存在。
そのひとがいなければ自分はどうなってしまうのだろう、と考えることさえ恐ろしいひとを失くすことは
死別だけでなく、あり得るのです。
それがいまのあなたです。

その言葉は穴があいた心に沁みわたり、妙に納得した。
そうか、
わたしは自分と同じくらい大切なひとを「喪失」したのか。


時を同じく、海の向こうから親友がアメリカのドラマで有名なSEX AND THE CITYのDVDボックスを送ってくれた。

のあんたにはなによりの薬」と。


以前Instagramの質問コーナーで「4人のなかで誰が一番好きですか?」とご質問をいただいたが、わたしはサマンサが好きだ。

彼女は一見ザ・パワーウーマン。誰の目も気にせず奔放でわかりやすい強い女の象徴だ。


何回観たかわからない主人公たちと同じ年代になったドラマを再び流しながら気付く。
サマンサは4人の中で誰よりも繊細で弱い女性なのだと。外に表現する「強さ」は彼女の鎧。

彼女は弱さも含めそれら全てを受け入れ自分というひとりの人間を誰よりよく知っている。本当の「強さ」を持っている。

だからこそ誰より優しいひとだと思う。


ドラマと映画版でもこんなシーンがある。サマンサが愛した相手に別れを告げる。
“ I love you, but I love me more. ”
「あなたのことを愛している。でも自分のことをもっと愛しているのよ」


自分と同じくらい愛する存在。何があってもあなたの味方だよ、と言えるひと。
両親、兄弟姉妹、子どもたち、パートナー、そして親友。
そのリストに生涯共にしたいと思える「誰か」が入ることは非常に稀なことだと36歳のわたしは知る。


わたしのそのひとは「誠実な男性」の象徴、エイダンのようなひとだった。

誰もが好感を持ってしまう。
まっすぐで優しく、静かな情熱をもち、
酸いも甘いも自分自身の経験で知っている。

愛されるという感覚を、家族以外から初めて感じた。

今まで本物だと思っていた過去の経験が「恋愛ごっこ」のようにさえ思えた。
それほど彼の愛は青空のように無限に広く大きかった。この世界には
映画のような出来事が現実にあるのだ。


思春期から父のDVや両親の泥沼の離婚騒動でトラウマがあったわたしに

彼は身をもって全身全霊で6年間という歳月、ひたすら与え、支えてくれた。

わたしがずっと求めてやまなかった「愛」と「安らぎ」で、わたしの中にあった「恐れ」を溶かした。


愛する人。親友でもあり家族より親密なひと。
その人と、別れの道をわたしは選んだ。


婚約し全ては万事順調。周囲も心から喜んでいる。絵に描いたような幸せ。


「結婚」という自分には無縁だと思っていた、多くの人が望む未来が近づくなか
小さなホクロのような違和感を心の奥深くに感じた。


小さなホクロは結婚の日が近づくにつれ無視できないほどコブのように大きくなっていった。


セックスアンドザシティでエイダンと婚約したキャリーがアグリーなウェディングドレスをお遊びでミランダと試着したとき、最初は爆笑していたキャリーは突然のパニック発作に見舞われる。

エイダンが同棲のために部屋の改装をしているシーンで、隣の部屋との壁が壊されはじめた瞬間

キャリーも壊れる。


「いま、だからなのか、彼だからなのか、一生なのか、わたしはまだ結婚ができない」という真実を彼女は知ってしまったのだ。


そんなキャリーにエイダンは言う。
「もし今結婚したくないんだったら、一生、僕と結婚したいとは思わないはず」


あまりに何もかもがキャリーと共通した状況や想いに泣きながら笑ってしまった。
タイミングというやつはまったく、
こちらが予期しないときにやってきては、すれ違ったり去っていったりする。

結婚できなかった理由は今も正直わからない。
きっと一生わからない気がする。それでいい、と思う。


一筋の光がみえる道を 「いつものように」 直観で選ぶしかなかった結果だった。


初めて出逢った心から大好きなひとなのに何故か一緒になれない。

愛するひとを傷つけることは、自分が傷つくことよりずっとか苦しい。

そんな自分勝手な選択の「喪失」は経験したことのない穴だった。
「 わたしの選んだ道は、彼もわたし自身も、愛する互いの家族も傷付けた。これがわたしの選んだ道。正しいか誤りか、誰にも知ることはできない、今はまだ。ただ苦しいだけ 」


どうかどうかわたしの選んだ道が、わたしを含めた皆をいつか笑顔に導く道でありますように。
ただそう祈るしかできない。


パートナーが別れの際にいった言葉が忘れられない。
「言い出すほうがずっと勇気がいることだ。外からみれば言ったほうが悪者にみえるけれどそれは違う。
全ては二人が創りあげたものだ。
君の勇気はすごいことだよ、
だからどうか自分を責めないでいてくれ 」


彼のような人にわたしは二度と出逢えないだろう。
彼との6年間の一瞬一瞬の全てが、
ジュエリーが太陽の光やレストランの照明に当たりキラキラ光っているように今も輝いている。

忘れたくない。生涯忘れることなんてできない。
陳腐なよくあるドラマのような台詞。

それはとても静かに、でも確かに存在している。
それらの宝物をぜんぶ胸に抱きながら今日も生きていこう。いける、と確信する。